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第4回「課題別アプローチ:離職防止・定着率向上の本質はキャリア構造にある」

2025.11.22 組織力最大化プログラム

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1. 離職率の改善は“制度強化”だけでは動かない理由

多くの企業が離職対策として福利厚生・評価制度・研修制度などを整備しています。しかし、それでも離職が止まらない企業は少なくありません。

制度を整えても改善しない理由は明確です。離職の根本原因が“キャリア構造”の歪みにあるためです。

離職理由は、表面上は合理的に語られますが、その背後には個人のキャリア構造と、組織の役割構造の不一致が横たわっています。

2. 離職の「表面的理由」と「構造的理由」は異なる

離職面談で社員が語る理由の多くは次のようなものです。

  • 成長が感じられない
  • 評価が不透明
  • 人間関係
  • 仕事量が多い
  • このまま働くイメージが持てない

これらはすべて“表面の理由”です。もちろん嘘ではありませんが、その奥にある構造的理由を見つけなければ対策は当たりません。

組織支援の現場では、以下の構造的理由が繰り返し観測されます。

① 自分のキャリアの軸が言語化されていない
役割期待が曖昧なまま放置されている
自分の価値がどこで活かせるのか見通せない
上司との対話が、“業務の相談”に限定されている
評価=行動の採点 になり、成長文脈がつながっていない

こうした構造は、福利厚生を強化しても、フレックスタイムを導入しても、改善されません。

離職とは、“制度の問題”ではなく、“構造の問題”として捉える必要があります。

3. 離職は「キャリア自律の失敗」ではなく、「キャリア構造の断絶」

最近の人材論では「キャリア自律」が強調されますが、これは社員に自律を丸投げすると逆効果になります。

キャリア自律は、個人の価値観 × 組織の役割構造 × 上司との対話の三点がそろって初めて成立します。いずれかが欠けると、キャリア自律は“責任の押し付けや放任”に変わります。

つまり離職とは、個人の自律が弱いからではなく、組織と個人をつなぐキャリア構造が欠けているために起こる現象と捉えることができます。

4. 定着を高めるフレーム:「キャリア自律 × 関係性」

定着率を高める上で必要なのは、キャリア自律を“関係性の中で成立させる”構造です。

ポイントは次の二つです。

① キャリア自律(個人側の構造)

社員が自分のキャリアを語れる状態をつくります。

  • 自分の価値観
  • 自分の強み
  • 自分の役割認識
  • キャリアの移行パターン
  • 今の仕事に意味を見出す構造

“自分の人生と仕事のつながり”を社員が理解できるようにすることが重要です。

② 関係性(組織側の構造)

上司・組織は、社員のキャリアが独り歩きしないように支えます。

  • 役割期待を言語化する
  • 配置の背景を説明する
  • 業務とキャリアの接続点を対話する
  • 組織の方向性と個人の軸が重なるポイントを探す

キャリア自律は「関係性の中で成立する」という前提を外すと、社員は孤立してしまいます。

5. ケース:若手・中堅の退職に見られる“語りの構造”

典型的に現れる語りの構造を紹介します。
ケースA:若手社員の退職語り

語られる言葉(表面的理由)
「やりたいことが分からない」「方向性が違う気がする」「成長実感がない」

背後の構造(構造的理由)
・業務と自分の価値観の接点が見えていない
・“役割”ではなく“作業”として仕事を捉えている
・上司との対話が「できた/できない」の確認に限定されている
・職場に“キャリアを考える言語”が存在していない

若手社員は、語彙が不足している状態で組織と接続しようとするため、言葉が「違う気がする」に収束しがちです。

ケースB:中堅社員の退職語り

語られる言葉(表面的理由)
「このままのキャリアで良いのか不安」「役割が不明確」「評価が納得できない」

背後の構造(構造的理由)
・変化した役割の“再定義”が組織で共有されていない
・キャリアの節目(ライフイベント・昇格)が語り直されていない
・成果と貢献の違いが曖昧
・“任される仕事”が“評価される仕事”と一致していない

中堅社員は、自分の成長曲線と組織の役割構造がズレると、不安定になります。これは個人の弱さではなく、構造の更新不足です。

6. 離職の防止は「対話」「構造」の強化

離職防止=対話強化。これはよくある誤解です。もちろん対話は必要ですが、構造が整っていない対話は“正しいことを言っているが何も変わらない”状態をつくります。

必要なのは、次の階層を整えることです。

① 個人のキャリア構造(価値観・強み・意味づけ)
② 組織の役割構造(役割定義・配置の意図)
③ 関係性構造(対話の質と頻度)

この三層が揃うと、キャリア自律は初めて実質を持ち、定着率が上がります

7. 離職を防げる組織は、キャリアを「戦略資産」として扱っている

離職防止の目的は、人材流出を止めることではありません。もっと広い視点で捉える必要があります。キャリア構造を整えることは、組織の戦略実行力を高める行為そのものです。

離職率は、“組織が変化に応じてキャリア構造を更新できているか”を測るバロメーターになります。

離職は決して感情論の問題ではなく、戦略の問題、構造の問題です。

8.どの研修が戦略的に有効か

キャリア開発を「社員の人生 × 組織の成果」という二軸で捉えるなら、研修は“単発イベント”ではなく、組織の機能を強化する“戦略資産”として設計する必要があります。
その観点から、経営層・人事・現場が導入しやすく、なおかつ組織文化レベルに変化を生みやすい研修例を3つに絞って提示します。

① キャリアオーナーシップ創出研修(個人の内省 × 自律行動の促進)

組織において最も導入しやすい入口です。
社員が自身のキャリアを「会社任せ」から「自分で選び取る」へ転換するには、内省 → 価値観の言語化 → 行動仮説の設定というプロセスが不可欠です。

この研修は以下の効果をもたらします。
・社員が“受け身”から抜け出す
・異動・配置転換への納得度が上がる
・上司とのキャリア面談が質的に向上する

特に、若手〜中堅層のモチベーション低下や、キャリア迷子の増加に対して即効性があるため、管理職層が「すぐに導入しやすい研修」です。

② マネジメント層向け「キャリア対話」実践研修(組織文化に最速で影響する)

現場の文化を変える最短距離は、管理職が変わることです。
評価・育成・面談を担う“ハブ”であるマネジャーが、コントロール型から、対話と共創型へ移るだけで、部署の風土を大きく動かします。

研修では、
・キャリア発達段階の理解
・メンバーの語りを引き出す質問技法
・Will(意思)/Can(能力)/Must(役割)の整理
などを扱います。

ポイントは、マネージャー自身が「キャリアに向き合う経験」をすること。社員の内省だけでは文化は変わりません。管理職の理解と姿勢変化が、キャリア戦略を“現場で回る仕組み”に変えます。

③ “経営×管理者×現場”の三者合同キャリア戦略ワークショップ(組織システムそのものに影響)

これは組織全体の戦略をつくる最上位研修です。キャリア開発が“属人的な内省イベント”ではなく、人材戦略・配置・評価・育成計画に接続させるための場になります。

以下の効果を狙います。
・三者の「キャリア観」のズレを可視化
・将来の組織像から逆算した育成戦略を策定
・キャリア支援制度の改善(1on1、配置、育成施策)
・若手〜管理職までのキャリア行動モデルを設計

このワークショップを導入すると、
キャリアは自己責任”ではなく“組織と社員の共創領域”という考え方が根付くため、離職・育成・配置のすべてが一本の線でつながります。

■まとめ

3つの研修は単発の学び提供ではなく、「キャリアを通じて組織の成果を再設計するための戦略的レイヤー」として機能します。

  1. 社員の意識変容(自律)
  2. 管理職の対話力向上(文化)
  3. 組織の戦略構築(システム)

この三層が揃ったとき、キャリア開発は “制度”ではなく“組織文化”になり得ます。キャリア開発を導入されたい人事担当者の方や研修担当者の方は、まずどのレイヤーから始めるかを判断材料にすると、導入の確度と効果が飛躍的に高まります。

キャリア開発で組織を動かす話は、さらに「制度設計」「1on1設計」「配置の透明化」などにもつながっていきます。